タイトル: ”再生可能エネルギー” – その表現やめませんか–
ランナー: 会員
青木 寿博   さん 
    ”再生可能エネルギー”,最近よく耳にしますが,この表現は,日本語として間違っています。”自然エネルギー” 等と表現するか,あるいは,全く別の言葉(クリーンエネルギー,グリーンエネルギー等) をちゃんと定義すべきです。この言葉の元となった英語表現”renewable energy” およびその内容には,全く問題ありませんが,その日本語訳として”再生可能エネルギー” と表現するは大きな間違いです。ここでは,それに代わる言葉として,”第3 のエネルギー” という表現を提案します.以下にその理由を述べます。
    エネルギーは,存在形態や所在が変化することはあっても,増えたり減ったりすることはありません(エネルギー保存則)。厳密には,質量も含めて考えなければなりませんが,この言葉を使う場面でそれを問題にすることはまず無いでしょう。したがって,エネルギーとは,元々再生可能という性質を持っています。ですから,”再生可能エネルギー” と”エネルギー” とは,全く同じ意味であり,現在,日本で使われている言葉としての”再生可能エネルギー” には,全く当てはまりません。
    「それは屁理屈でしょう。ここで言うエネルギーは,”仕事をする能力” として定義される、すなわち, ”使えるエネルギー ”のことです」と反論されるかもしれません。確かに電気エネルギー等は,例えば,電気ストーブとして利用すると,熱に変換され ”使えないエネルギー ”になってしまいます。ある環境においての ”使えるエネルギー ”は,専門的には, ”エクセルギー ”,あるいは, ”有効エネルギー ”と呼び ”エネルギー ”と区別します.百歩,いや,二・三歩譲って, ”再生可能エネルギー ”の中の ”エネルギー ”という単語は, ”エクセルギー ”という意味で使っていると解釈したとします。実際に,”省エネルギー ”という表現は, ”省エクセルギー ”の意味で使われており,これに異議を唱える気は全くありません。
    ”再生可能エクセルギー ”であれば,いいのかという問題になりますが,この表現にも科学的には,大きな誤りが含まれています。なぜなら, ”エクセルギー ”とは,一方的 (”時間の矢 ”と同じ向き )に減少するものであり,時間が戻らない限り,再生されることなどありえません。これを ”エクセルギー減少則 ”といいます.詳しい説明は,熱力学の専門書に譲りますが, ”エクセルギー減少則”は,一般的にもある程度知られている,かつ間違った解釈がされることも多い, ”エントロピー増大則”と等価です。
    電気ストーブの例に戻れば,電気が室温の熱に変換され,いずれ外気温度の熱へと変化していきます。この間,エネルギーの総量は変化しません (保存する )が,質は,劣化し続けます。外気温度の熱エネルギーを再び電気エネルギー等の質の高い (すなわち,使える )エネルギーへの変換は,別の高質のエネルギーなしでは不可能です.例えば,外気温よりもより低温状態の場を作り出せれば,外気との温度差を利用して発電可能ですが,地球上でこれを実現するためには,発電で得られる電気エネルギーよりも多くの電気エネルギーを消費し,本末転倒です。エアコンの暖房運転では,外気温度の熱も利用して,室内を温めていますが,これは,新たに電気も消費しているから可能なのであり,こうして得られる室温の熱エネルギーの総量は,つぎ込んだ外気温度の熱と新たに加えた外部からの電気エネルギーの和と同じ,エネルギーの質を比べれば,必ず劣化 (エントロピー増大)します。
    風力や水力のエネルギーは,新たに降り注ぐ太陽エネルギー (1次)によって再生された 2次エネルギーと解釈すれば,再生可能と呼べるかもしれません。しかし,この解釈では,太陽光はもちろん,地熱エネルギーに対しても, ”再生可能 ”とは言えなくなります。地熱は,地球内部に蓄えられたエネルギー量が莫大だから,利用しても減らないように見えるだけであって,再生されるわけではありません。元々の英語表現 ”renewable energy”はそういう意味で使われています。 ”recycle energy” とは,表現しません。
    「 ”薪”に代表されるバイオマスエネルギーは,再生可能なのでは」と考える人がいるかもしれませんが,この場合,再生されるのは, 2次エネルギーである化学エネルギーを蓄えた ”バイオマス”つまり物質であり,その元となる植物が育つ (再生される )ためのエネルギー源は,新たに降り注ぐ太陽光です。植物,つまり,物質は再生されますが,そのエネルギー源が再生されるわけではありません。太陽光の連続供給が無くなったら,バイオマスエネルギーというのは成り立ちません。     以上述べたように, ”再生可能エネルギー ”の中の ”再生可能 ”や ”エネルギー ”の部分をどう解釈しても,現在使われている意味を表現できません。もちろん,”renewable energy”であれば,全く問題ありません。
    「では,日本語ではどう表現すればいいの」ということになるでしょう。
    元々, ”再生可能エネルギー ”として表したいのは,太陽光や風力,水力,あるいは,バイオマスエネルギー等でしょう。これらは,まず,電気エネルギーへ変換されます。この電気は,どんな使い方をしても,いずれは,熱になり,地球の温度をわずかに上昇させ,最終的には宇宙へ放射され,再び地球に戻ってくることはありません。 ”再生可能エネルギー ”と呼ばれているのは,再生不可能なエクセルギーのことなのです。仮に,全て再生できたとしたら,地球へ降り注いだ太陽エネルギーが熱として蓄積され続け,地球の温度は,太陽の表面温度 (約 6000 ℃)に到達するまで上昇しつづけるでしょう。 100年後に最大約 6℃上昇と現在予測されている地球温暖化どころの話ではなくなります。地球から宇宙への放射熱を無くすのは不可能ですから,これはありえないことですが。
    現在, ”再生可能 ”と呼ばれるエネルギー源が継続的に利用できるのは,エネルギー自体が再生されるからではなく,エネルギー源である太陽光が常に (新たに ),しかも,人類が使い切れないペースで,降り注がれているからです。風力や水力も元をたどれば太陽光がもたらす気象現象ですから,新たに降り注ぐ太陽光なくして維持は不可能です.結局,太陽光ばかりが源になるなら, ”太陽起源エネルギー ”とでも呼べばいいのでは...,いや,それでは,地熱は,地球生成時に内部に閉じ込められた熱エネルギーだし,潮力は,地球と月や太陽との間の引力による位置エネルギーが源ですから,これらを表現できません。逆に,太古の昔,降り注がれた太陽光をエネルギー源として成長した植物由来である石炭が含まれることになります。
    英語では, ”renewable energy”なのだから, ”新生可能エネルギー ”とでも呼びませんか。公文書でも何でも,1文字書き換えるだけで済みます。あるいは,もっと適切な表現を見出しましょう。世界中から,「日本語は論理的でない」などと言われないようにするためにも。
    ここまで書いたのが約 1年前,公開する機会がないまま放置していました。 ”新生可能エネルギー ”では語感が今一つなのが,ずっと気になっていました。そんな中,ある日,もっと重要なエネルギー源が二つあることを再認識しました。
    一つ目は, ”ネガワット (negawatt energy)”です。日本では, ”節電所 ”と言った方が通じるかもしれません。現代の日本人はまず電気に限らずエネルギー,さらには,物質の無駄使いも減らすべきです。震災直後を思えば, 3割カット位は,簡単にできるはずです。
    二つ目は, ”人力 (human energy)”です。人間のエネルギー源は,食物,植物だけでなく動物であっても,元をたどれば太陽光に行き着きます。現代人がお腹に蓄えた脂肪は,もっとも身近なバイオマスエネルギーでもあり,使わずに貯めつづければ,成人病の原因になりえます。
    人類は, ”ネガワット ”と ”人力 ”,この二つのエネルギー源を最優先で利用すべきでしょう。それでも,尚,豊かな暮らしを保つのに必要なエネルギー源という意味を込めて, ”第3のエネルギー”という表現を, ”再生可能エネルギー ”に代わる言葉として使いましょう。 ”renewable energy”を無視することになりますが,こちらも ”the third energy”の方が響きがいいのではないでしょうか。言葉の由来とセットで広まれば,この言葉を使うたびに,その語源である 1 に ”negawatt energy”,2 に ”human energy”の思いが再認識でき,一石三鳥の効果が期待できます。