タイトル: アイディアを探して
ランナー: 会員 (いわき明星大学)  岩田惠理 さん

   いわきに来てやっと4年がたちました。今は、魚類をモデル動物とした社会行動の研究をしていますが、いわきに来る前はマウスやラットなどを使って繁殖に関連する行動について研究をしていました。
   私がいわきに来る直前くらいに、アメリカの研究グループによって面白い研究が発表されました。北米大陸には2種の野生のハタネズミが生息しています。この2種は同属で非常に近縁なのですが、まったく逆の繁殖スタイルを持っています。片方は一夫多妻制で、雄はなるだけ多くの雌と交尾を行います。もう片方は一夫一妻性で両親が協力して子育てをするのです。この一夫一妻性は非常に強固なもので、仮にパートナーが死んでしまったりすると、残った方は新しいパートナーとペアになることは生涯ありません。ヒトどころか、オシドリも真っ青の貞節ぶりです。この2種のハタネズミ雄の脳の中の特定の遺伝子の発現量を比較したところ、AVTRというたんぱく質をコードする遺伝子の発現量が、2種のハタネズミの間で劇的に異なっていることが判ったのです。さらに一夫一妻ハタネズミの雄に、AVTRの遺伝子を導入して脳内のたんぱく質を増やしてやると、今まで一夫一妻であった雄が複数の雌と交尾するようになったのです。このデータは一時マスコミでも、「浮気は脳のせいだから仕方がない」というような、責任転嫁的な感じで取り上げられもしていました。
   浮気はさておき、この研究で面白いと思ったのは、繁殖戦略の違いを逆手に取った発想の転換でした。それもハタネズミのような、どこにでも居るごく普通の動物を用いても、アイディア次第で興味深いデータが得られる可能性があるのです。それもあり、いわきに来て研究を立ち上げる時、いわきに居るげっ歯類を用いて何か面白い行動データが取れないかと調べて見たことがありました。ところが、日本のげっ歯類の研究はフィールド調査がメインであり、その詳しい生態は実はほとんどわかっていなかったのです。婚姻形態や育仔行動などの細かい行動データは、実際に飼育し、繁殖させてみなくては得ることが出来ません。だったら自分で調べるという手もあったのですが、結局は行動についての情報が蓄積されており、私自身も以前より親しんでいた魚類にターゲットを絞り、研究をスタートさせました。
   ご存知のようにいわきの里山には、アカネズミとヒメネズミという2種のアポデモス属のネズミが生息しています。ある研究者はヒメネズミを一夫一妻性だと言い、別の研究者は一夫多妻だと言っています。数回前のリレーエッセイに高荒氏もお書きになっていましたが、私たちは地球の裏側に住んでいるサバクトビネズミについてはTVなどで知る機会も多いのですが、裏山の雑木林にひっそりと住んでいる日本のネズミのことは本当に何も知らないのです。ひょっとすると、日本のネズミをもっと研究することで何か大発見があるのではないかといまだに妄想することもありますが、昨今の地球温暖化のせいで、研究する前になくなっちゃうかもしれないと、少し心配にもなる今日この頃です。