タイトル: 近い地球環境 ・ 遠い地域環境
ランナー: 会員  高荒智子  (福島工業高等専門学校  建設環境工学科)


みなさんは「環境問題はなぜウソがまかり通るのか(武田邦彦著)」という本をご存知でしょうか。
関西系テレビ番組をきっかけに話題になった本です。
ここには、「リサイクルは逆にごみを増やす」とか「地球温暖化が進行すると海水面は下がる」など、これまでの環境の常識を根底から覆すような内容が書かれています。
日頃から環境の為に努力をしている方が読んだら動揺してしまいそうな内容です。
 この本の内容が果たしてどこまで真実なのか?ということはさておき、私が驚いたのはこの本の反響ぶりです。
それまであまり注目されていなかったこの本(著者には失礼ですが)は番組放送直後、インターネットで売上げ1位を記録したり、売り切れになる本屋もでるほどの大反響を呼んだそうなのです。
まさに「バカ売れ」。本当にたまげた話です。
この現象は、TVというマスコミの力とインパクトのある本の内容があいまって発生したと考えることができますが、それ以前に、この背景には国民の環境に対する非常に強い関心があったことが大きな要因の一つと考えられます。
国民が環境問題に対していかに強い関心を持っているかは、このバカ売れ現象を見れば明らかであるということです。

さて、この本は主に地球環境問題や廃棄物問題のような世界レベルあるいは国レベルの広範囲の環境について触れています。
私は今年の4月から「いわき地域環境科学会」に参加させていただいています。“地球環境”という、とても広い範囲に比べると“いわき地域環境”ははるかに小さい範囲ですが、どちらも「環境」という言葉が使われています。
この「環境」という言葉の意味を私なりに考えると、それは「人間に関わりを持つ空間のこと」なのではないかと思うのです。
ちなみに辞書には、「取り囲んでいる周りの世界。人間や生物の周囲にあって、意識や行動の面でそれらと何らかの相互作用を及ぼし合うもの。また、その外界の状態。」とあります。
多くの人間は都市に住んでいてその空間を都市環境と呼びます。
人間は地球という惑星に住んでいて、この空間を地球環境と呼びます。
もし人間が火星で生活するようになったら、そこを火星環境と呼ぶようになるかもしれません。
このように、環境とはその範囲や状況が変化しても常に人間に関連性のある空間のことであって、“環境の問題”つまり環境問題とは「人間」が生きる上で好ましくない状況のことを指すと私は解釈しています。

最近、私はいわき地域環境科学会の会議に出席して感じたことがあります。
上述の“バカ売れ現象”にみられたように、今の現代人は地球環境のような広範囲の環境問題に関する関心は非常に高いけれど、身近な地域環境に対してはどのくらいの興味を持っているのだろうか?ということです。
新聞やニュースでは連日のように温暖化問題が取り上げられ、いまの地球は危機的な状況で将来的にどうなるのかといった情報が国民の耳に入ってきています。
一方、地域環境のような小規模に関する情報はどうでしょうか?たまに地域のニュースで流れるのは、「○○川にサケの稚魚が放流されました」とか「子供たちによって植林が行われました」など、どちらかというと環境に対して良いイメージ(安心感〉を持つような情報ではないでしょうか。
もちろん、悪い状況でないならばありのままに良いニュースとして報道されて当たり前なのですが、少なくとも多くの環境活動は今改善すべき状況であるからこそ行っているものです。
例えば、海岸のゴミ拾いに関するニュースでも、「ゴミ拾いという良いことをした」ということが前面にでてしまい、その海岸にとってゴミ問題がどれほど深刻なのか、具体的に地域住民はどう対応すればよいのかという重要な情報が隠れてしまいがちなのではないでしょうか。
住民の耳に入る数少ない地域環境の情報は“微笑ましいただ一時の環境行事”としての印象が強く、おかしなことに、身近なはずの地域の環境が遠い存在になってしまっているのではないか心配です。

また、このようなことも考えられます。
私は義務教育をずいぶん前に終了していますので、最近の小中学校教育に関してはよくわかりませんので全くの想像でしかないのですが、環境教育現場において今の子供たちは、地域環境に関する教育を受けるより早く地球環境問題に関する教育を受けるのではないでしょうか。
多くの大人たちは、現在よりも昔の方が豊かな自然に囲まれて美しい地域環境が存在したと感じていると思います。
そのように思っている方々の子供の頃は、相当早い時期から身近な自然に触れることでまずは地域環境から学んでゆき、徐々にその範囲を広げていったのだと思います。
身近な環境に目が向けられていたから、昔と今を比べて小さな変化にも気づくことができるのです。
しかし、今は身近な環境よりも地球環境について学ぶ機会が増えてしまい、人間生活への影響力が最も大きいはずの地域環境への関心が希薄になってきているのではないかと思うのです。
今の子供たちで、地球環境の現状と地域環境の現状の両方を説明できる子供はどれほどいるでしょうか。
このような環境問題への関心のドーナツ化現象といえるような偏りが生じているのは、地域環境の豊かな自然が失われていることだけが理由なのではなく、情報が溢れる現代社会において地域環境に関する適切な情報が少なかったり、せっかくの貴重な地域情報や話題が他の多くの情報にまぎれて結果的に市民の耳に届く前に埋もれてしまったりしているからではないでしょうか。
前述したように、環境が「人間に関わる空間」であるならば、地球環境よりもむしろ地域環境の方がより身近で人の生活に強く関わっているものであり、本来ならばもっと注目されるべき空間なのではないかと思うのです。