タイトル: いわきの海の変わりよう
ランナー: 会員  秋元 義正


  沿岸域は海洋中でも最も生産性が高く、砂浜、岩礁域、藻場などの多様な生息環境には多種多様な生物や海藻が生息している。過去、いわきの海岸では商港や漁港を造成するため沿岸の浅海域が埋め立てられてきた。これらの埋め立て工事の規模は海岸線の規模からみればごくわずかなものに見えるが、これら造成に伴い沿岸域の海流は大きく変化し、周辺海域に生息する生物や海藻にも大きな影響が生じている。
  例えば、海底に潜って鮑、雲丹を採取している漁民達は、海流の変化に伴って周辺の岩礁域で砂の堆積や浸食が起こっていることにいち早く気づいた。このような海洋環境の変化は周辺海域の生息生物や海藻の種類数や生息量を減少させてしまうことが多い。

  先ず、海流の変化に伴って起きる地形的変化や生息環境の変動に伴う生物や海藻の変化について考える必要がある。次に、海洋生物が生息する海洋環境を考えるとき、調査観測には大雨や台風などの異常気象時の観測結果が含まれておらず、平常時の調査結果のみで考察や結論を求めたものが多いようである。海洋では生物や海藻の生息環境を考える場合、平常時の観測だけでなく、時化や台風時の怒濤のような異常な海洋環境をも調査する必要があるのではないだろうか。
  例えば、台風で海が時化た時には、岩礁域に付着生息している海藻や付着生物はどのようにして身を守っているのだろうか。海が時化たときに砂が岩礁上に飛んで、岩礁上に生息する生物を剥離したり、付着物を削り取ったり、あるいは生物や海藻自身はどの程度流されてしまうかなど興味ある点は数々ある。しかし、残念なことに、どの程度海が時化たときに、岩塊、石ころ,砂利、砂などが、どの程度、どのように運ばれ、飛ばされる過程でどのように既存環境を変えるかなどについて数量的に把握した調査はこれまで全く行われていない。
 
  また、漁港や商港の造成に伴って海底にブロックなどが投入されれば、埋め立て同様に、直接漁場面積は減少してしまう。さらに投入後、工事海域周辺では流れや波浪などの物理的海洋環境が変わり、生息種の変化や海藻の磯焼けなどが起き、アワビ・ウニ漁獲量が減少してしまう現象が過去、小名浜、沼の内、四倉漁港の拡大工事などでは見られてきた。このような工事に伴う漁獲量の減少は各地元の採鮑組合や採藻組合員は身にしみて感じている。
 アワビ漁獲量の減少の原因は防波堤を沖合に新設したり、堤防を沖合へ延長したりする事により、従来の漁場域内の海洋環境に変化が生じたため起こったものである。

  現在、本県だけでなく、全国的に沿岸漁場でアワビの漁獲量が減少し、これに伴いアワビ漁に従事する漁業者数も減少している。アワビの減少を海洋環境の変化から考えてみると、アワビ稚貝の餌となる珪海藻が海流の流動が変化したことによりうまく繁殖できないことが原因となっている可能性がある。磯焼けなどが原因でなく、仮にこのことが原因であるとするとアワビを増殖するためには人工種苗放流数を増大する以上に、初期餌料となる珪海藻が適正に繁殖するような生息環境を復元することが重要であろう。

 かつて、いわきの菊田浦海岸や新舞子海岸では海岸砂浜に美しいカプス(アーチ状の汀線形状がリズミカルに連なる地形)が形成されていたが、潮の流れが小名浜商港や平潟漁港の沖だし防波堤などの影響を受けてカプスの形成は消滅した。また、昭和30年以前には遠浅海岸であったが、浜は昭和40年以降に急速に急深になり、それに伴ってコタマガイやチョウセンハマグリなどが消滅した。また、クルマエビ、ガザミの稚カニやカレイ類などの生息適地となる浅瀬のなぎさ域も消失した。このように浸食された海岸がある一方で、四倉漁港の南側で見られる砂堆積による膨大な造成砂浜の砂は何時どこからどのように運ばれるのであろうか不明な点が多い。もし運ばれる砂が、海水と一緒に流れるとすれば、このような堆積や浸食現象が起きる前の海と現在の海では海水の流動環境が全く異なることとなる。また、現在、いわき海域の定置網は全廃されているが、その原因は魚の資源が減少しただけではなく、沿岸潮流が小名浜港や各漁港や防波堤施設などにより、その流れが変化したことが影響したとも考えられる。

  昔のいわきの海は沿岸の海水は透明で美しく、浅瀬では海底まで透き通って見えたものだが、いまは海水の濁りも増えて特に夏などは濁りで透明度が悪くなることが多い。 
沿岸域には町からの生活排水はもとより、大雨になれば山や森、田圃や畑から大量の土砂も河川から海へと大量に流入してくる。これら大量に流れ出る生活廃水や濁水は海水の濁りの主要因となっていると考えられるが、その成分、拡散期間、拡散範囲などについて調査された事例はない。このような海水の濁りは海中を透過する光線の量を減少させ海藻の繁殖を阻害し、生息生物にも重大な影響を及ぼすものと考えられる。

  以上述べてきたように、浅海域における防波堤の造成、人工構造物の投入、砂浜域の砂の減少、陸水の流入に伴う海水の濁りは、沿岸の海洋環境に重大な変化を及ぼし、それにともないそこに生息する生物や海藻は大きな影響をこうむっていると考えられる。
今後は、これまで以上に海洋環境の変化と漁場の生息生物、海藻の種数や生息量について十分な研究を行っていくことが重要であろう。海の環境と生物の関係を新たな視点から長期的に見つめ直すことが大切である。