タイトル: 大学でのISO14000認証は教育に何をもたらすか
ランナー: 福島工業高等専門学校 物質工学科 羽切正英


ISO14000は,ISO(International Organization for Standardization)によって定められた規格で,各種事業における環境負荷の低減を目的とした規格である。このためISO14000は,環境ISOとも呼ばれる(以下,環境ISOと略す)。日本では,品質管理の規格であるISO9000と同様,認証を取得する企業が増加しており,認証された組織数は世界各国の中で日本が最も多い。環境ISO取得を目指す事業者は,環境基準や廃棄物に関する規則を遵守するのはもちろんのこと,自らの手で目標を設定し,事業を行う上での環境リスクの低減をはかり,その結果を分析してさらなる改善を行う。この様ないわゆるPDCAサイクルを形成して,さらにそれを第三者機関が有効だと判断したとき,はじめてISO14000認証済みと名乗ることができる。
例えば,工業生産を行うような企業では,工業活動にともなう環境リスク(廃水などの工業排出物,ゴミ,エネルギー消費など)を計画的に低減し,事務活動をするものにおいては,電力や紙などの資源を節約する。そしてこれを評価・結果を反映するシステムを作らなくてはならないし,さらには構成員の環境に対する意識の向上も求められるため,事業者にとっては大きな負担となる。しかし,多くの企業は自社の環境への取り組みをアピールするために,この規格を積極的に取り入れている。企業におけるISOの取り組みについても,様々な問題があることは多く指摘されているが,ここでは割愛する。
環境ISOは,環境への取り組みについて規定したものであるので,企業に限らずにあらゆる事業者に適用される。教育機関としてこの点にいち早く目を付けたのが,私立大学である。大学がこのような認証を受けることによるメリットとしては,学校をあげて環境に取り組んでいる事を社会に示し,学校や学生のイメージを向上させる事が大きい部分を占める。また,実益の面では省資源・エネルギーによって経費を削減することができる。特に私立大学は学生を集め,その授業料収入で運営される法人としての側面があることから,イメージの向上と経費削減を同時に行うことができる環境ISOの導入は,学校の戦略としては特に有効なのかもしれない。ちなみに福島県内の大学としては,日本大学工学部が認証を取得しているとのことである。
一方,最近ではいくつかの国立大学(現在の国立大学法人)においても,環境ISOへの取り組みがなされている(2006/08/20 現在9校,12事業所)。筆者も実は,環境ISOの認証を取得した国立大学法人に所属していた(名前はあえて伏せておく)。そこで,実際の現場で感じたISO導入のメリットと問題点を考えてみようと思う。まずメリットとしては,環境に対する取り組みとして大学が設定した項目(省エネルギーや省資源,化学系の学科などにおいては環境中に排出する化学物質の低減など)がある程度遵守され,段階的に環境負荷の低減がなされた点である。実際に,紙の使用量などは減少しているようであるし,夏季の電力使用量も導入前よりも緩和されたとの事であった。一方,問題点としては,認証を受けるための手続き(書類作成,研修,審査など)のために,教職員が多大な労力を払わなければならず,労働力が削がれてしまうことや,最悪の場合それに伴って研究のアクティビティが低下してしまうことが挙げられる。また,経費が削減されても認証のための審査料などの経費がかかるため,経費の面ではどの程度の効果があるのか疑問視する声もあった。そして最大の問題は,きちんとした「環境意識」の向上がはかられているかどうかという点である。事業所(この場合は大学)の末端の構成員である学生は,環境ISOがどのようなものであるのか,実際のところあまり良く分かっていない。ひどいケースだと,学校でそのような取り組みをしていることを全く知らない学生も居た。この様な状況では,環境に対して積極的に取り組んでいる教育機関であると胸を張って言えるのだろうか,疑問が残る。やはり,授業や研究などの現場で,環境に対する教育と学校の取り組みとを同期させて教育を行う必要があるのだろう。
この様に,教育現場でのISO導入にはまだ様々な問題点があるかと思う。教育機関である限りはシステムの形式的な完成や目標の達成のみではなく,学校を挙げての環境への取り組みと,学生への環境意識の浸透とを結びつけていく必要があるのではないかと考える。ただし,今回紹介したのはある学校での取り組みについてであるので,もっと上手くいっているケースがあるかもしれない。そのような学校があれば,是非教えて頂きたい。ともあれ,教育機関における環境への取り組みの一環として,今後とも大学などの環境ISOへの取り組みに注目していきたい。


参考資料 国立大学法人でのISO14000認証取得状況(2006/08/20 現在)

全学で認証取得
    福井大学   京都工芸繊維大学   千葉大学   島根大学

学部・施設単位での認証取得
    信州大学(工学部,教育学部)       熊本大学(薬学部,工学部物質生命化学科)
    長崎大学(環境科学部,学内共同利用施設) 岐阜大学(地域科学部)
    筑波大学(農林技術センター)