タイトル:   潮目と藤原川  
ランナー: 古内栄一


  大相撲千秋楽、優勝盃を伝達した小泉首相の「感動した」の一語はいまや全国をかけめぐる一語になった。
新年早々、藤原川河口に近い下流域で荒井丈氏と野鳥観察に出かけた。この日の9時半頃が満潮時刻で藤原川護岸ブロック吃水線は少しずつせり上がっていた。上流に目をやるとくっきり潮目が現れ、川の主流部中心の海水遡上が判る。汽水域であることが目で見られる時間帯であった。
その昔、涸沼のほとりで過ごした時期のこと、月夜の晩に湖岸へ出ると湖を横断する潮目がよく見え巻すで魚がはねているのが見えていたのを想い出す。又、ずっと後で貝類採集のため鮫川下流で潮目ができる時間帯に中州へ渡ることを試みた。ところが、強い海水の流れに足をすくわれ思わず身構えたことがあった。強い海水遡上の流れを肌で感じた機会であった。多分この日の藤原川も同様の現象が起こっていたと思われる潮目の出現であった。
藤原川堤防河川敷は立ち枯れたヨシ・オギ・ススキが地下水位の高さですみ分けている。水辺のヨシはヤナギ類と一緒に茂みをつくり魚を集め水鳥を呼ぶ。
ダイサギ(5羽、以下数を( )内に記す)、アオサギ(3)コサギ(1)カルガモ(1)が寄りそうグループ、アオサギ(1)ダイサギ(2)のグループ、カルガモ(7)コガモ(1)オオバン(6)のグループがいてじっと立って水面をねらっている。航跡を引きながら、こちらのヨシの茂みから対岸のヨシの茂みを目ざして潮目を横断するカルガモとオオバンの混合グループ、開けて見通しが利く中洲でカルガモ(17)オオバン(4)の休憩グループが、藤原川と矢田川合流点付近のヨシ原に拠り集っている。この時期の水鳥は鳥種にかかわりなく群れをつくるようである。食い分けしているのか。
時々上空をトビが旋回、ノスリが1羽水面近くまで急降下し、餌を掴む。食べながら上昇飛行する。器用だ。ウミウが1羽水面から飛び上がると別の1羽も後を追い着水位置を換える。潮目が出現している水域から離れない水鳥達である。どの水鳥もヨシ原に依拠している。水辺のヨシ群根元は魚が集まり鳥の安全地帯になっているようだ。
かつて、藤原川矢田川合流点付近の塩素イオン濃度を測定していただいたことがある。上流部から合流点へ向かって 3,700mg/リットル、3,800mg/リットル、4,500mg/リットルの値が得られ、雨水溝の水は 2,900mg/リットルであった。合流点から下流部はより強く海水が混入しているだろうし、満潮時の海水遡上はより高い塩素イオン濃度になるだろう。この現象が1日に2回起こっているわけだ。海水遡上に伴って沿岸魚も遡上する。藤原川淡水域に比べてはるかに豊かな魚相になる。
また、中部浄化センター・東部浄化センターの排水堰が下流部にあって水門付近にはボラの大群が集まることが知られている。微小生物が多いことを知っているのだろう。
河口に近い下流域は市街地に近いのだが、比較的底辺が大きい生態系を形成しているように思える。上流から運ばれる塩類を含む淡水に加え、汽水域で育まれた水棲生物と陸上生物が複雑にからみ合いながら繋がっている水域といえる。川や陸の鳥、海の鳥の生態的区分けのできない相互乗り入れ生活接触域が汽水域にはあるということだ。濃厚の程度は河川によって違うだろうが。ノスリはもちろん、オオタカの棲息がささやかれている藤原川合流点付近は海水の遡上が鍵を握っているように思えるがいかがだろう。
それにしても魚類や鳥類は海水遡上時刻を誰から教えられたのだろう。そして、海水の進入と堤防のヨシ原の茂みは水鳥ばかりか陸鳥にも豊かな環境を提供していることが判る。互いの繋がりに視点を換えて観察していると意外な驚きに出逢う。海の魚を挟んで藤原川海水遡上と水鳥の行動を観て、小泉首相の感動に及ぶことはないが感動の連続した2時間余りの観察であった。


小名浜の市街が展開する藤原川下流域
ヨシ原茂み縁に立って水面をにらむアオサギ(1)ダイサギ(2)。
白い斑点に見える。


中州で休憩しているダイサギ・コサギの群れ。水面にカルガモが浮かぶ。
左方からカルガモが1羽着水しようとしている。
このあたりの塩素イオン濃度は高い。
下流方向へ飛行するダイサギ2羽。

見通しのよいヨシ原の隙間で休むカモ類の群
れと水面を飛んで採餌場を換えつつあるカモ。