タイトル:   身近な生き物がすむ自然環境の保全  
ランナー: 原田正光 (福島工業高等専門学校 建設環境工学科)



自然環境への様々な働きかけが結局は私たち人間に還ってくることにようやく気がつき、いかに自然環境と調和を保ちながら、人間の営みを続けていくかという問題を真剣に考えるようになっている。
人間も他の生物と同じ生物群集を構成する要素の一つであり、これらを含めた生態系では多くの生物がともに生息できる環境を維持していくことが、長い目で見たときに人間の営みも継続できる環境であるという考え方が少しずつ広がってきている。

ゲンジボタルやヘイケボタルは1年で一生を終えることが多いが、卵から孵化したホタルの幼虫は水の中に入り、そこで一生の大半を過ごす。
「♪ほー、ほー、ホタル来い。こっちの水は甘いぞ」という童謡から、成虫となり光っているホタルが甘い水を求めるように思われているが、実際には成虫はほとんど何も食べず、1週間ほどしか生存しないで交尾・産卵を行う。
餌を食べるのは、一生の大半を水の中で過ごす幼虫の時期だけである。
4月下旬から5月上旬に水中から上がり、水際の土の中で蛹になり、ゲンジボタルでは6月中旬、ヘイケボタルでは7月中旬に成虫となり河川空間を飛翔する。
産卵は、孵化した幼虫が水中に入りやすいように水際の苔や水草に産み付けられる。
このように各成長段階で生息する場が異なるが、成虫になるまでにどれかひとつでも生息場の状態が悪い時期が存在するとホタルの光は見られなくなるわけである。

場だけでなく、ホタルにとって最も生活する時期の長い幼虫期に餌となるカワニナ等の貝類が豊富にあるか、ホタルの幼虫を取り巻く水環境は適したものになっているか、など食料やその他に環境条件が整っていることが必要である。
さらに、餌となる貝類が生息する環境が満たされているかなど、食物連鎖でつながる生物とその環境も保全されていることが必要になるわけである。
最近、自然環境の保全には生物多様性というキーワードが用いられるようになっているが、ホタルが乱舞する空間を残すには、ホタルだけでなく他の生物がたくさん生息できる環境を保全すること、ひいては自然環境全体の保全にも通じるものがあると考えられている。

いわき市内でも以前はゲンジボタルやヘイケボタルが多く見られたが、近年その減少が目立っており、これを以前のようなホタルが乱舞する里に戻したいという要望が強く、地域ぐるみで保全活動が実践されている。
当研究室では現在、ホタルの生息域を拡大するための対策を検討し、地域とともに保全活動を実践するための基礎的知見を得ることを目的として、ホタルの生息域における生息分布や環境調査を通して、幼虫期の空間、食料、環境条件、蛹期および成虫期の空間と環境条件について現況把握を行っている。
餌となるカワニナの生息は見られるがホタルの飛翔は見られない地点が多く、生息空間やその他の環境条件の何に問題があるか検討している。
人為的な影響がおよぶ以前はほとんどがホタルの生息に適していた環境であることを踏まえると、人為的に加わった阻害要因を1枚ずつ取り除いていく操作は、すべて取り除かなくても生物の持つ環境適応性により、人間の営みとある程度で折り合いが付くところがあるのではないかと考えている。

いわき市は、ホタルが生息できそうな農村の景観がとても多い地域であり、実際にホタルの生息が確認されているところも少なくない。
当たり前だと思っていた景観がある日突然無くなっていたことに気づかされるということが起こらないようにしていきたいものである。
一連の調査研究を通して、地域の自然環境を考え、これを保全していく機運を高めていくことにも役立てたいと考えている。
あと一月もすれば、冷たい水の中で頑張った幼虫が地上へと這い出す、楽しみな季節である。




ゲンジボタルとヘイケボタル
が同時期に生息する空間

ゲンジボタルの産卵場

ヘイケボタルの交尾

カワニナの幼虫を食べる
ゲンジボタルの幼虫



次回のランナーは、山田貴浩 さんです。